この記事は日加タイムス2000年8月4日号に掲載されたものです。一部または全部の転載は一切ご遠慮ください。


3.尾端骨

「びたんこつ」という耳慣れない言葉が、先日話題になりました。これは鳥の尾羽がはえる辺りにある骨の固まりのことで、尾端骨と書きます。この骨に似たものがモンゴル産の新恐竜に見つかり、尾羽があった証拠なのではないか、という予報が科学誌「ネイチャー」に載ったのは今年1月のことでした。今回のニュースは、その研究が一段落し学名がつけられたというものです。

「ノミンギア」と名づけられたこの恐竜、背骨一揃いと腰、そして足の一部しか知られていないため、どのような動物だったかはっきりとは分かりません。背骨と腰の特徴から判断すると、オビラプトサウルス類という、肉食恐竜の中でも一風変わったグループに属していたようです。推定体長は約2メートル。しっぽの先端の骨が5つほど癒合して尾端骨ともとれる構造を形成しています。しかし、果たして本当に尾羽が生えていたかどうかは今後の研究が必要ですし、復原例にあるような翼を持っていた証拠は何もありません。また、鳥との直接の系統関係もありません(鳥は別グループの恐竜から進化しました)。


Nomingia
図1:ノミンギアの復元例。翼は全くの想像で、尾
羽の存在も不確定。頭はオビラプターからの類推。

オビラプトサウルス類というのはオビラプター(卵泥棒)という恐竜とその仲間をさし、8600万年から6500万年前くらいのアジアと北米に住んでいました。オビラプターは短い嘴のような口を持っており、歯は有りません。頭の骨はとても変わった形をしていて、古脊椎動物学者でも初見では何がなんだか分からないほどです(勿論しばらく観察すれば分かりますが)。大正時代末期に見つかった最初の化石が恐竜の巣の上に覆い被さる様にして保存されていたため、卵泥棒の汚名を着せられました。しかし5年ほど前、実はこの巣がオビラプター自身のものであった事が分かり、泥棒ではなく卵の世話をするよい親であった、とその評価が逆転したのは有名な話です。


Oviraptor
図2:卵を守るオビラプターの親。

ノミンギアは日本の私設博物館とモンゴル科学アカデミーの共同発掘隊が発見したもので、日本にとっては特殊な意味合いを持っています。10年ほど前は、日本で恐竜等の研究者になるのはほぼ不可能でした。詳細は省きますが、不幸な歴史的巡り合わせのため日本の古脊椎動物学は低迷してしまい、その頃には博士号を出せる大学もなければ、恐竜研究をしている学生すらいない有り様だったのです。そういった中で、「自分たちで博物館を作ってしまえば研究者になれる」という奇抜な発想を行動に移した人々がいました。彼らは苦労の末にバイオテクノロジー企業「林原(はやしばら)」の援助を得て博物館設立に乗り出し、艱難に耐えてモンゴルとの共同発掘プロジェクトを軌道に乗せました。その林原自然科学博物館のプロジェクトがようやく見せた学術的な功績がノミンギアなのです。論文はモンゴル・ポーランド・カナダの第一人者と共著のため、日本人の陰が薄いのこそ悔やまれますが、それでも拍手を送りたいと思います。


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この記事は日加タイムス2000年8月4日号に掲載されたものです。一部または全部の転載は一切ご遠慮ください。